分速、3歩くらいのN氏は、腰が悪く椅子やテーブルをゆっくりつたいながら移動する。「いたたっいたたっ…」と、はうように
分速、3歩。何事も超スロー。
普段は、ソファで新聞やテレビをながめながら、ゆっくりと過ごしていた。
動いた方がいいタイプの腰痛持ちだったので、ある日のレクリエーションで
タンゴのCDをかけ、「少し動いてみませんか?」と手をさし出すと、
鼻メガネの、上目づかいで、
「ダンス?」とこちらを見上げる。
フロアでは、すでに他のスタッフと利用者さんが、リズムに合わせて
歩行の練習を始めている。
N氏は、私の手をつかみ、ゆっくり立ち上がる。
軽快なリズムに、体もうずくのでしょう。
エビのように曲がった腰は、のび、地ダンダを踏むように
足を動かすも、前には進まない。
けれど、音楽の嬉しさが体じゅうから、あふれている。
ついには、大漁旗を振るように、足を踏ん張り、
私を左右にブン回し始めた!
あまりの豹変ぶりに、皆大爆笑。
さっきまでのスローモーションなNさんは、仮病だったのぉぉぉー!
ひとしきり私を振り回し、フロア中に笑顔をまきたらして、
N氏は、ソファで放心。
私も脱力の午後でした…。