花のコラム—②

分速、3歩くらいのN氏は、腰が悪く椅子やテーブルをゆっくりつたいながら移動する。「いたたっいたたっ…」と、はうように

分速、3歩。何事も超スロー。

普段は、ソファで新聞やテレビをながめながら、ゆっくりと過ごしていた。

動いた方がいいタイプの腰痛持ちだったので、ある日のレクリエーションで

タンゴのCDをかけ、「少し動いてみませんか?」と手をさし出すと、

鼻メガネの、上目づかいで、

「ダンス?」とこちらを見上げる。

フロアでは、すでに他のスタッフと利用者さんが、リズムに合わせて

歩行の練習を始めている。

N氏は、私の手をつかみ、ゆっくり立ち上がる。

軽快なリズムに、体もうずくのでしょう。

エビのように曲がった腰は、のび、地ダンダを踏むように

足を動かすも、前には進まない。

けれど、音楽の嬉しさが体じゅうから、あふれている。

ついには、大漁旗を振るように、足を踏ん張り、

私を左右にブン回し始めた!

あまりの豹変ぶりに、皆大爆笑。

さっきまでのスローモーションなNさんは、仮病だったのぉぉぉー!

ひとしきり私を振り回し、フロア中に笑顔をまきたらして、

N氏は、ソファで放心。

私も脱力の午後でした…。